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10日目のこと・3 ~サハラ砂漠の夜~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

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 西サハラ、シェビ大砂丘が夕暮れをむかえた頃、わたしは抱えていたひとつの懸念の解決に取りかかることにした。
 砂漠まで来てしまったはいいが、ここからどうやって帰るかは決めておらず、どうすればいいのかもわからない。
 決まっているのは2日後のマラケシュの宿と、3日後のジュネーブ行きの飛行機だけ。いちおう宿の予約時に、エルフードまで送ってもらうことは頼んであり、またその後は途中のワルザザートという街で1泊しようかなというおおまかなプランがあるにはあるのだが、まぁとにかく、マラケシュまでの最善のルートを探らなければならない。
 都合よく宿のロビーの壁に大きなモロッコ全図が貼られており、その前で愛想のいい宿の男性スタッフをつかまえて相談してみた。

 とりあえず2日後にはマラケシュに着いていたい。
 ついてはエルフードかリッサニから、そっち方面に向かうバスはあるのか。あるとしたら、都合のいい時間に出ているのか。

 「いや、ちょっとわからないなけど、たぶんティネリール(エルフード~ワルザザートの中間にある街)まで行かないとないんじゃないか」

 え、そうなの? じゃあティネリールまでグランタクシー使うしかないのかな。

 「あいやー、それはやめたほうがいい。あんなギッチギチで長時間はキツイでしょ。それにワルザザートまではいいとしても、そこから先が問題。途中のアトラス山脈には雪が残っているから、もしかしたらバスが運休してるかもしれない」

 なんと。

 「なんならおれが一気にマラケシュまで車で連れていってあげようか。それなら途中で観光案内もしてあげられるし。ワルザザートでいい宿も紹介してあげるよ」

 ほー、それはありがたいが、お幾ら?

 「ホテル代込みで3000DH」

 3000――日本円で約35000円!
 いやー、高いッス。

 「いやいや相当お得だよ?」

 いやー、無理ッス。のーまにーッス――わたしも不用意だった。「No Money」ということばが、彼の気に、モロッコ人の気に障ったのだろう。

 「銀行でおろせばあるんでしょ?」

 日本人とモロッコ人の感覚のズレ。
 そもそもが日本人の一般的感覚からもズレていると思われるわたしに、その日本人の典型を想定して接せられるから、ズレはさらに大きくなる。

 ギスギスした空気になってきた。
 彼の愛想のよさもすっかり消えてしまった。
 どうにもうまくいかない。
 あー、イヤだ。
 また心の扉が閉じていく。

 “遠くモロッコで観光できるくらいの日本人には端金だろう”とでも思ってるんだろうが、おれは“リボ払い”という名の借金してここまで来てるんだ。ギリギリなんだよ。これ以上余計な金は使えない。とにかく無理ッス。
 もうこの話はなかったことにしよう。
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 後に出された晩飯は日本人の口にも合う、ほんとうに美味いものであったのだが、この複雑な気分が阻害して、旨みが心にまで染みない。

 なんだか叫びだしたくなったが、それをこらえつつ外をみてみると、月がでたでた月がでた。
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 危険などかえりみず、ホテルの照明が届かないところまでふらふらと砂丘をのぼった。
 砂漠の夜といえば、なんといっても星空が見どころであるが、この夜は月明かりが強すぎて星はあまりよくみえない。
 しかし、星のかわりに、砂が月に照らされ蒼く輝いていた。
 はじめてみる、蒼い砂漠。

 おれはなにをしにここまで来たんだ。
 そうだ、この為ではないか。

 月の砂漠をはるばると――

 少し吹っ切れた。

 乾燥した空気に、眩しいくらいの月明かりを遮るものはわたしの身体しかなく、蒼い砂に影を映していた。
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