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7日目のこと・2 ~モロッコ入国~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 出港後まもなく、船内でモロッコへの入国手続きが始まり、窓口に行列ができてきた。
 わたしもはじめは何事かと思ったのだが、“船内で入国手続きをする”というのは事前に知っていたため、“あぁ、このことか”と、行列に加わった(ちなみにこれを逃すと、当然のことながら後で面倒なことになる。おそらく入国手続きしていなかったのであろう欧米人数人が、下船時に足止めをくらっていた。彼らがその後どうなったのかは知る由もない)。
 窓口ではほんとうにちゃんとしたチェックが行われているのか、じゃんじゃん行列が短くなっていき、たいして待ちもせずわたしの順番になり、やはりわたしのパスポートもろくなチェックもされずに、ポンとスタンプが捺された。
 はい、これで形式上はモロッコ入国でございます。

 入国手続きが締め切られると、船はぐいぐいスピードを上げ、また完全に外海に出たということもあるのか、席を立って歩けないほど猛烈に揺れ始めた。
 なんだ、地中海ってこんなに荒れるものなのか。天気は悪くないのだが。それとも、これがこの高速船の常なのか。
 とにかく、“船でアフリカに行く”という情緒を感じられないまま、1時間半弱の乗船。“これなら、なんとかしてフェリーに乗っておくべきだった”という後悔をしながらも、いよいよモロッコ・タンジェへ、アフリカへと上陸を果たした。
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 ターミナルを出て最初に目にした景色は、なんてことのないフツーの港のものであり、ついにアフリカへやってきたという感慨は起こらないが、そびえ立つミナレットに、アフリカに来たというより、イスラム国に来たという実感が湧き、それなりに先程の後悔も薄れる。
 が、それと同時に、途方もない不安感も湧いてきた。この極小の心臓を持ったわたしが、日本からとんでもなく離れた地までやってきて、それでいて4日先に予約してある砂漠のほとりの宿まで、どうするかなにも決まってない。ガイドブックの情報はごくごく限られており、ほとんどのことは現地で調べて、交渉しなければならないというのは、もう途方にくれるしかない。
 しかしハプニングでこうなったわけではない。自分で選んだ道である。予定がないのが予定どおりなのである。しょうがない。
 ま、とにかく、ここで野垂れ死にするわけにもいかないので、とりあえず市街に出て交通手段の確認をし、移動するか1泊するか決めよう。
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7日目のこと・3 ~タンジェにて思う~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 港の敷地内にあったATMでキャッシングをして15時。敷地を出てすぐの場所の、モロッコ国営バス、CTMのオフィスに入ってみる。
 この先、4日後に予約してある砂漠の宿までどういう日程で、どうやってたどり着くかは、その場で利用可能な交通手段によって決めていこうと考えていたのだが、そこは極度の貧乏性であるわたしだ。より多くの都市をみてまわりたい。なもんで、できれば、すぐにタンジェを出発して、メクネスで1泊、フェズで1泊、砂漠の手前の街エルラシディアで1泊――というのが理想であったが、残念ながらメクネス行きのバスは出発直後だったらしく、次の便は4時間後。
 これは要するに夜行バスということだな。
 宿泊費が浮くのはいいが、モロッコ初日から夜行バスはさすがにキツイ。民営バスという手もあるが、なにやら車内設備に当たり外れがあるそうなので、同様に、初日からあまり冒険はしたくないということで却下。
 鉄道は、渡航前の下調べでは適当な時間の列車がなかったはず。

 もういいや。メクネスはあきらめた。朝10時発のフェズ行きがあったので、もうそれで。はい、バスチケット購入。そしてタンジェ泊決定。

 CTMのオフィスを出て、ガイドブックに載っている中級ホテルへ向かおうとすると、ひっきりなしに「コニチワー」と、“自称ガイド”が寄ってくる。なるほど、噂どおりだ。これでも減ったというから、以前はさぞめんどくさかったことだろう。
 「ダイジョブダイジョブ、ノーサンキュー」みたいなことをいいかげんな英語だかフランス語だかを駆使しつつあしらっていたが(つい数時間前までスペイン語だったのが、ここからはフランス語とアラビア語である。なんとややこしい)、あるひとりのオッサンが、どう断ろうとも離れず、ついてきた。そしてしつこく片言の英語で話しかけてくる。

 「どこへ行くんだ?」
 ホテルですよ。
 「もう決まってるのか? なんならおれが紹介してやる」
 いやいや、決めてるからいいですよ。
 「なんだ、どこだ。場所はわかるのか?」
 ダイジョブダイジョブ、ノーサンキュー。
 「いいから、そのガイドブックを見せてみろ」
 近いし、もうわかるから、ダイジョブダイジョブ。
 「いいからいいから、案内してやる」

 あぁ、もうめんどくさい。しょうがなく、ホテルまでの数百メートル、オッサンとふたりの道中とあいなった。

 そしてあっという間に目的のホテルに到着。そりゃそうだ、近いんだもん。
 するとオッサン、やはりというか、
 「案内してやっただろ。チップをよこせ」
 
 富める者と貧する者。生活する、メシを食っていくということはどういうことなのか。国、文化による価値観の違い。

 いろいろ考えたのは後の話で、この場では、もうめんどくさいだけ。
 あぁあぁ、わかったよ。
 手持ちでの最小硬貨だった5DHを渡した。

 さらにオッサン、“こいつはカモになる”とでも思ったか、

 「ハシシ、ハシシ」

 ときた。

 もう、なんだかなぁ。
 日本から、いろんな意味で遠く離れたところまで来てしまったということを実感したものの、感慨を深くするだとか旅情を味わうだとかいう以前に、なんだか複雑な気分になる。
 こんなに気楽にすすめてくるということは、現実に日本人の多くがやっているということだろう。知識として、こういうことが多いというのは知ってはいたが、いざそれを目の当たりにすると(誰かが吸っているのを見たわけじゃないが)、なんだか情けなくなってくる。そんな他の日本人と一緒にしないでくれ、オッサン。そもそもおれはタバコすら吸わない。

 「のーすもーきんぐ」とかなんとか言って一蹴し、ホテルへ逃げ込んだ。
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7日目のこと・4 ~タンジェを歩く~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 飛び込んだのは、Hotel El Djeninaなる、ガイドブックによると、ごくごく普通の中級ホテル。



 で、飛び込んだはいいが、実は海外の宿を、文字通り“飛び込み”で決めるのは、これが初めてである。そもそも対人恐怖症の気があるコミュニケーション不全のわたしが、不自由な外国語による交渉をしなければならないということに、渡航前からこの場面を想像して相当ビビリまくっていたのだが、躊躇するどころか、前述のオッサンから逃げ出すために飛び込んでしまったおかげで、すでに目の前にはレセプションのオッサンが。
 ええいままよと、勢い、
 「どぅ ゆう はぶ えにぃ るーむ?」
 とかなんとか、てきとーな英語で訊いたら、あっさり通じた。ま、観光国モロッコの中級ホテルである。そりゃ英語ぐらい通じて当然か。一応、同様の意味のフランス語とアラビア語も覚えておいたのだが、不要だった。ただ、勢い込んでの出まかせだったため、有事の際、果たしてうろ覚えのフランス語やアラビア語を咄嗟に出すことができたかどうかはわからない。

 念のため、部屋も見せてもらったら――
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 ――ガイドブックどおり、ごくごく普通、いや、過去泊まってきたヨーロッパのホテルと比べても、なんら遜色のない、清潔感と広さを持った部屋だった。もちろん、値段も安い。文句なく今夜の宿をここに決め、チェックイン。
 荷物を置き、さっそく初のアフリカ街歩きに繰り出してみる。

 イスラム国の見所といえば、どんな国、土地でも、旧市街・メディナになるわけで、わたしも向かってみたのだが、いざ目の前にしたら、ビビって躊躇してしまった。
 城壁に囲まれたメディナの入り口の門の奥に、異世界が見えていた。一度入ったら、そこから抜け出せない――。
 他の都市のメディナに比べたら、タンジェのそれはこじんまりしていて迷うことはないとのことなのだが、アフリカ初日の気弱な日本人には、まだちょいとキビシイ。この先に訪れる予定である、フェズ、マラケシュのメディナの印象をより鮮烈にするためにも、ここは遠慮しておこう――と、自分に言い訳をカマして、新市街へと逃げ出した。

 地中海を見下ろす丘の上にある新市街をふらふらしていると、マクドナルドを発見。イスラム教国とはいえ、さすがにユーロナイズされた国、モロッコである。ちょうど“晩飯はどうしようか”と考えていた矢先でもあった。食い物になんのこだわりもないわたしは、迷わず突入。
 店内には、これまた宗教だとか民族だとか欧米文化の流入だとかには大してこだわりがないのであろう若者でごった返していた。
 恥ずかしながら、当時、“イスラム教は牛食禁止”(それはヒンドゥー教ですね)と勘違いしていたわたしは、遠慮してチキンフィレオを注文。
 テラス席があったので、タンジェの街と地中海を見下ろしながら、優雅に夕餉。
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 マクドナルドを出て、再び街歩きをしながらふらふらと港前まで戻り、日暮れ頃、広場にあった、外から見るに雰囲気の良さそうなカフェに入って、また休憩。席に着いたらすぐにメニューが出てきた。明朗会計。ボラれる心配はなさそうだ。
 4年前のフランス旅行で磨き上げた口、舌の動かし方を思い出しながら、
 「あん きゃっふぇおれ すぃるぶぷれ~」
 と、注文。
 出てきたきゃっふぇは、とくに美味くも不味くもなく。
 店内のテレビで、何を言ってんだか当然さっぱりわからないアラビア語のニュースをぼけーっと見たり、ガイドブックをペラペラ捲りながら明日の予習をしたりで30分ほど過ごし、店を出る。

 夜食を買うため、カフェの近くの小さな売店に入ってみたら、値札もなにもない。こここそボラレ時かと不安になりなるが――ボラれたとしても日本円で100円200円のことで、致命的ではないだろう――いや、金額の問題ではなく、ボラれるということ自体、日本人がナメられているようで悔しい――とかなんとかウダウダと考えつつ、とくになにもいわずにコーラとスニッカーズ風の菓子、そして値段がわからないまま恐る恐る20DH紙幣を店のあんちゃんに差し出したら、しっかり10数DHのお釣りが返ってきた。そうだ、そんな悪人なんて、そうそういるもんじゃないんだ。

 ホテルに帰って、コーラの栓を開ける。
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 欧米文化の象徴のような飲み物に、プリントされたアラビア語。これもある意味、モロッコという国をよく表しているような気がする。
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8日目のこと・1 ~タンジェからフェズまでバスに乗る~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 朝8:00起床。準備をすませてホテルをチェックアウトし外へ出ると、けっこう寒い。タンジェの2月は、日中は15℃くらいあるが、朝晩はかなり冷え込む。
 フェズ行きのバスは10:00発。それまで広場に面したカフェで朝食。なにか素っ頓狂なものを注文して、“なんだこの日本人”と思われるのも恥ずかしいので、まわりがどんなものを食っているのかを観察してみると、大概の客はクロワッサンやデニッシュとコーヒーという組み合わせ。なんだ、普通ではないか。わたしも倣ってクロワッサンとカフェオレの朝食とした。

 9:30にCTMバスターミナルに着き、しばらく待っていると、フェズ行きのバスがやってきた。乗り込むと、普通の観光タイプのバス。シートなども目立った汚れはなく、じゅうぶんな清潔感がある。CTMバスは指定席制。席に着いて、さてこの先どうなることやらとソワソワしているうちに、10:00。乗客はたった10人程度で、定刻どおりバスは発車した。

 母なる大地アフリカで、初めてのバス移動である。市街地を抜け、さぁ車窓にはどんなスペクタクルな風景が広がっているかと期待したが、羊飼いがいたりして、なんのことはない、ヨーロッパの鉄道やバスで見てきたのと同じような田園風景が延々と続く。

 いやべつに、野生動物と出会えそうな広大なサバンナや、荒涼とした砂漠なんかは、地理的にお目にかかれないのはわかってはいたが、東京在住のへなちょこ野郎にとっての非日常的風景くらいはちょろんとでもあるんじゃないのかな、と淡い期待を抱いていたところ、ちょろんと拍子抜け。ま、生きていれば、明後日にはサハラ砂漠まで行っちゃうのだ。楽しみはとっておこう。
 2時間ばかり走ったところで、ティトゥアンに到着。地図を見てみると、まだ行程の5分の1程度しかきてない。一応予定では、乗車時間は8時間だったはずだが、どうやら遅れているようだ。なんだかげんなりしてきた。
 ここで相当数の客が乗ってきて乗車率8割程になり、出発。
 わたしのとなりの席には、地元民と思しき、ベールで顔を隠した中年女性が座った。些細なことが失礼にあたったりタブーだったりしそうで、かなりドキドキする。
 ここからはどうやら山を越えるらしく、崖っぷちを走ったりして、先程とはうって変わってわりと壮絶な景色が待っていた。

(車窓の方向が違うのは、ティトゥアンまでは席がガラガラだったので、勝手に席を移動していただけです)
 とはいえそれは、いわゆる高地、山岳地帯のもので、わたしが勝手にイメージするアフリカの景色とは違うものであったのだが、まぁいい。明後日だ、あさって。

 13:15にシャウエンらしき街、そして14:00、15:30と名のわからぬ街に寄り、カフェで30分ほど休憩。満員に近くなっていた車内から2割ほどの客が降りた。
 ここから2時間ノンストップで18:00。タンジェからバスに揺られに揺られ、およそ10時間の乗車。ついに日も暮れかけたフェズに到着した。さすがにキツイ。しかし、ここでぼけっともしていられない。バスターミナルで、次に向かう砂漠方面へのバスの時間を確認する。
 とりあえず次に宿泊する予定の街はエルラシディア。窓口にいたキレイめのおねーさんに、てきとーな英語でそこまで行きたいという旨を告げると、

 「21:00」だと。

 え、それしかないんすか?

 「それしかない」と。

 おねーさん、ちょっと待っててね。おれ考えるから。

 さて、どうしたもんか。
 この直後の21時の便はいわずもがなの却下ではあるが。
 民営バスで昼便を探すか?
 いやしかし、よくよく考えてみたら時すでに18:00であり、明日昼便で出発するとなると、フェズ観光はまったくできないことになる。
 一方、明日の夜出発であれば、日中はフェズ観光にあてることができるうえ、砂漠の手前のけっして大きくはない街で一晩過ごすということはしないで済む。もちろん宿代もうく。
 もうこれ以上うまい案はないと思われる。というか、もうこれ以上考えたくない。ぼくはもう疲れたよ。だって10時間もバスに乗ってたんだもの。

 お待たせしました、おねーさん。明日の21:00の便、ひとりでお願いします。

 チケットを買い、ガイドブックで目星をつけていた宿へ向かうべく、フェズの街へ出た。
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8日目のこと・2 ~フェズで人のやさしさを知る~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 さて、ここフェズでも、無難にガイドブックに載っている中級ホテルに泊まろうかと、新市街へ出た。
 目当ての宿に向かうべく、そのガイドブックの小さい地図を頼りに、夕暮れのフェズをトボトボ歩く。
 しかし、行けども行けども目的地にたどり着けない。どこか、違う道に入ってしまったのか。
 地図には道路名が割と細かく記載されていて、これを頼りにできそうなもんなのだが、実際の道路には道路名表記の看板がどこにも見当たらず、結局役に立たない。
 なにか他に手がかりはないかと、立ち止まってガイドブックを凝視しては、あたりを見回したりしていると、女学生と思しき若いモロッコ女性ふたり組の内のひとりが、「May I help you?」と話しかけてきた。しかもこれが、ふたり共かわいい。

 モロッコ到着そうそう、タンジェで“自称ガイド”の洗礼を浴び、オッサンのしつこさに小銭を失ったわたしは、モロッコ人恐怖症になっていた。「コニチワー」と、わたしが日本人だとわかって話しかけてくる人に対し、“あぁこいつ、おれをうまいことだまくらかして小銭をせしめようとしているんだ”と疑心暗鬼に陥り、無視を貫き通すようになっていたのだ。
 フェズに到着して、バスターミナルからここまでさまよい歩いている間も、多数の人に「コニチワー」と声をかけられ、それを悪意の有無の判断をまったくすることもなく、ひたすら無視するか、「ダイジョブダイジョブ」とてきとうにあしらうという失礼極まりない行動を繰り返してきたのだが、そういえば、女性から話しかけてきたのはモロッコ上陸以来初めてだ。しかもかわいいときた。
 日本国内だと、他人に好意を抱かれる外見の要素が皆無のわたしに話しかけてくる女性がいたら、それこそ詐欺か、新興宗教の勧誘に違いないと疑いを持つが、こんな遠い異国の地で道に迷って途方に暮れている状態に陥っている中、かわいい女性に手を差し伸べられたら、仕事以外で女性と話すというモテない男特有の緊張感を持ちながらではあるが、そりゃ心も開くってもんだ。
 文字どおり“迷える”子羊の前に、天使が舞い降りた。あぁ、ありがたやありがたや、と、すがりつくように、地図を指し示しながら道を訊ねると、天使は懇切丁寧に教えてくれた。あぁ、ありがたや。
 もちろんこのわたしに、「そこまで一緒に行ってほしい」などという不埒な要望を出せるほどの余裕があるはずもなく、「さんきゅー、めるしー、しゅくらーん」と、思いつくままに礼の言葉を並べ、ふたりと別れた――はいいが、舞い降りた天使に、緊張で舞い上がっていたわたしは、教えてくれた道順をロクに覚えていなかった。
 そこで道中、交通整理をしていたポリスマンや、両替所のおっさんに道を訊ねることになったのだが、みな嫌な顔ひとつせず、丁寧に教えてくれた。金銭を要求されることだってない。
 そう、基本、モロッコ人はいい人ばかりだったのだ。
 声をかけられても無視する一方だった自分を情けなく思いながら、親切な人々のおかげでたどり着いたのは、

 Hotel Olympic

 なる中級ホテル。



 タンジェでのホテル同様、レセプションでは下手な英語も難なく通じ、部屋も見せてもらったところ、

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 なーんにも問題なし。即決。すぐにチェックインを済ませ、いったん部屋に落ち着いた。


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8日目のこと・3 ~フェズの夜に言葉で迷う~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 チェックインしてまた部屋に戻り一息入れたところで、2日後に行く砂漠の宿に手持ちの携帯電話でリコンファームの連絡を入れる。予約時のメールのやりとりで、“2日前に電話されたし”といった旨の指示を受けてたため。

 “2日後、必ず行く”
 という他は、

 “エルフード(砂漠の最前線の街)まで迎えに来てほしい”
 “エルフードに着いたらまた電話をする”

 という、これも事前にメールで伝えていたことを再確認するだけなのだが、なにしろ外国語による電話の通話というのは生まれて初めてであり、表情、ジェスチャーがお互いに見えない状況で果たしてどこまで通じるものなのか見当がつかない。
 とうぜん、こちらは英語で挑むことになるわけが、相手の英語力がどの程度のものなのかも不安だ。まったく通じないというのは、それこそ“話にならない”わけだが(メールは英文でのやりとりだったので、たぶんそれは心配ないだろう)、逆にベラベラでこられても、こちとらそこまでのヒアリングはできない。

 例によって極小の心臓が本領を発揮し始め、“まったくおれのような蚤レベル、いや、それでは蚤に失礼なくらいの卑小な人間が、アフリカ個人旅行なんてするもんじゃない”と、こんなところまできてウジウジするが、こんなところまできたら、もう後戻りもできない。
 開き直って電話をかけたら、出たのはメール相手の男性。おかげで話は早い。英語も適度なヘタっぷり。お互い片言の英語でも難なく通じ合い、「じゃ、また明後日。よろしくネ」と、電話を切る。

 そうだ。個人レベルで抱える不安など、実際はたいしたものではないのだ。大概はどうにかなるもんだ。

 さて、ひとつの懸念が解消され、ちょいと心も軽くなったところで、どっぷり日も暮れてはいるが、旧市街まで行ってみることにする。
 ただ、心は軽くなったとはいえ、長時間バスに揺られ、ホテルまでさまよい歩き、10時間飲まず食わずとなると、足取りは重い。
 よちよち歩きで1km強。メディナの手前までやってきた。
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 が、ここでついにくたばる。
 腹減った。動けない。
 そして体力と同時に気力も限界に。
 目の前には、人気も少なくなった、灯りも乏しい巨大迷路のメディナ。
 恐怖心が好奇心を押しのけた。もう怖いのなんのって。
 一度入ってしまったら、やすやすと抜け出せる自信がまったく起こらない。

 明日、明るい内にゆっくり見てまわろう。

 引き返し、途中にあったマクドナルドで晩メシ。
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 “ロイヤルデラックスバーガー”なるものを食ってみると、これがミョーに美味い。日本の通常バーガーより肉がジューシーのような。はたしてこれは、ほんとうに肉が違うのか、“空腹が最高の調味料”ということなのか。

 帰り道。相変わらず、すれ違う人すれ違う人「コニチワー」。
 しかし先程、モロッコ人のやさしさに触れたばかりである。とあるおっさんに笑顔で応答してみた。
 すると、重ねてかけてきたことばが
 「オーサカ?」
 へ? なんで?
 外国人を見ると知ってる単語を発し、聞いてもらいたくなる気分はわかるが、それにしてもなぜそのチョイス。

 彼らに気軽に応答する日本人はやはり関西人が多く、出身地を教えてもらうと、「オオサカ」の割合が高いと、そういうことなのかどうか。
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9日目のこと・1 ~フェズでメディナに彷徨い、タジンを喰らう~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 次に乗るバスの出発時間は21:00発。とにかく時間があるので、ギリギリまで寝てやる。
 9:30に起床し、だらだらしてからホテルをチェックアウト。荷物を預け、昨夜は諦めたメディナの散策へ向かう。

 すでに昼前で日の高いフェズの街並みは、とうぜんのことながら昨夜とはまったく違う明るい貌を見せていて、体力も回復しているわたしの足取りも軽い。

 たどりついたメディナも同様に、昨夜とは打って変わって人で溢れかえり、紀行もののテレビでよく見る景色が目の前にあった。

 いや、実際そこに入り込むと、テレビの画面では伝わらない“汚さ”が見える。それゆえに街は生臭いまでの生活感に満ち、それゆえにパワフル。

 スークの喧騒。
 色の氾濫と、それを抑えこむ土色。
 漂う香辛料と家畜の匂い。
 細く入り組んだ路地を、人とロバが身を擦るように行き交っていく。
 さらにその間を縫うように歩いていくと、突然現れるミナレット。
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 スークでは、新市街とは比較にならないほどの「コニチワー」攻勢。わたしのゆるんだ心も引き締まる――なにしろ相手は商売人だ。今度こそおれをだまくらかそうとしているに違いない。あぁそうに違いない――そもそもこの雰囲気を味わいたいだけで買い物をする気のないわたしは、再びかたく心を閉ざし、ひたすら無視を決め込んでしまった。
 しかし、ただ挨拶しているだけで悪気がないのだとしたらひじょうに申し訳なく、それで無視するのに気疲れしてしまう。いい具合に放っておいてくれるヨーロッパが恋しくなってきた。

 それにしても「アニョハセヨ」とは言われない。彼らに見分けがついているのか、まだ韓国人のひとり旅は少ないのか。
 ちなみに日本人に限らず、すれ違う外国人観光客の中に、ひとり歩きをしている人は見かけなかった。

 さて、ここらでそろそろ昼めしでも。
 幸いにも、すぐそこにガイドブックに載っている明朗会計っぽいレストランがある。マクドナルドばかりというののつまらん。せっかくだし、モロッコらしいものでも食っておこうではないか。
 で、“ル・カスバ”なるレストラン。テラス席がいかにも観光客向けで、料金はべらぼーに安いわけでもないが、それが逆に安心。

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 この前菜に出てきたカレースープがなかなか美味い。ま、わたしはカレー味ならなんだっていいのだが。

 そして、いよいよ“モロッコらしいもの”。いまやブームにもなったタジン(当時はそれほど知られていなかった)。
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 あの特徴的なフタは、すぐにウエイターが持っていってしまい撮影できず、これではなんだかわからないが、とにかくタジンだ。
 注文したのはチキンベースのものだったが、味はとくにどうということはなく、いたってシンプル。味オンチのわたしでも、“鶏肉と野菜を煮込んで、サフランやらで味付けしたもの”と簡単に説明できるほどで。
 もちろん不味いわけではない。オリーブをそのまま食すのがそもそも苦手なので、それに目をつぶれば、じゅうぶん美味いものであった。
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9日目のこと・2 ~フェズでモロッコ美人について考え、いい旅夢気分~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 バスの出発までまだまだ時間があるが、これといってすることがない。そこで、ガイドブックの読者情報に載っていた、新市街にあるという大型スーパーに行ってみることにした。洗濯するのがめんどうなので、パンツでも買おうかと。ただ、それはあくまでも読者情報で、地図には載ってない。少々不安だが、まぁいい。散歩するつもりで――
 ――で、2㎞強は歩いてしまった。が、一向にスーパーなど見えてこない。情報どおりの場所まで来ているはずなのだが。つぶれたのか? まぁいい。これは散歩だ。
 引き返して、途中にあったカフェで一服。しばらく外を眺めながら物思いにふける。

 それにしてもモロッコは美人が多い。ウィーンほどではないにしても、先日まで滞在していたスペインや、過去に訪れたイタリアやフランスに比べると、はるかにわたし好みの顔立ちをした女性(昨晩の親切な二人組しかり)が多い。
 顔立ちの基本はアラブ人だが、そこに先住のベルベル人や、ヨーロッパからの白人要素が入り混じり、アラブ人の“濃さ”が中和され、三つの人種それぞれわたしには馴染みはないはずが、絶妙なバランスでブレンドされることにより、ニキのCAとは違う、“かわいさ”が含まれた親しみやすい美人顔が形成されている。それでいて基本はアラブ人なのだから、やはりエキゾチックでもあり。
 ま、しかし、ここまで書いておいてなんだが、なにが好みかといえば、日本人がいちばんの好みなんだけども。

 カフェを出て、再び旧市街へ。
 メディナに向かう裏道が坂になっていて、そこで荷台を連結した壊れたバイクを押す、地元民と思しき5人の男性に声をかけられた。相変わらず「コニチワー」。
 特に“手伝ってくれ”と懇願している様子ではなく、押すのに難儀しているようにも見えないのだが、無視して追い抜いていくのもどうかと思い、力添えした。
 ひとしきり感謝の意を表され、“いいよいいよ、荷台に乗りなさいよ、おれたちが押すから”みたいなことをとジェスチャーで示されつつ、坂の上まで押上げてから笑顔で彼らとお別れ。
 なんだかごくごく一般的な旅の思い出が作れてしまった。さすがのわたしも気分がいい。
 たとえわずかなリスクだろうと、それにビビってしまって人との触れ合いの一切を拒絶してきたが、こういうことがあるから無視するのにも心が痛むわけだ。

 さらに坂をのぼって、マリーン朝墓地付近へ。フェズの街を見下ろす。
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 わたしもいくら人嫌いとはいえ、都会には都会の、“なにがあってもどうにかなる”という安心感をおぼえる。
 これから数日はこの都会を離れ、1泊は砂漠という辺境の地で過ごすことになる。
 複雑な気分で街を眺めた。
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9日目のこと・3&10日目のこと・1 ~フェズから夜行バスに乗り、客引きにひっかかる~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 再度マクドナルドで味を試したりして、ホテルに戻り荷物を引き取り、CTMバスターミナルにやってきたのは18時。バスの出発まで3時間もあるが、もうこれ以上することはないし、読書をしながら時間をつぶす。
 そして時間が迫り、目当てのバスがやってくると、行き先表示には“Rissani”。
 リッサニだと?――

 わたしがこれから向かう西サハラ、シェビ砂丘は、現在地フェズから真南に位置し、そのルート上に、北からエルラシディア、エルフード、リッサニと街が並んでいる。
 宿のスタッフに迎えにきてもらう予定の街はエルフード。
 “リッサニ行き”ということは、どう考えたってバスはエルフードを通るだろう。
 しかし、わたしはエルラシディアまでのチケットしか持っていない。券面には終点地の印字はされておらず、バスはてっきりエルラシディアまでしか行かないものだと思い込んでいた。
 さてどうしたもんか。
 このままではせっかく目的地まで乗っけていってくれるバスを、わざわざ途中で降りなければならないことになるのだが、バスは全席指定だから、追加料金を払うだけといった簡単な手続きでは済みそうになく、また確認しようにもチケット変更しようにも、発車間際で時間はなく、交渉するだけの語力もない故、それに踏み切る勇気がでない。前日にチケットを購入する際は、“とにかくエルラシディアまで出て、エルフードまでの手段はそこで考えよう”と思っていたため、購入窓口のお姉さんには“最終的にはエルフードまで行きたい”という意はまったく伝えていなかったのが悔やまれる。

 ――もうしょうがない。当初の予定どおり、エルラシディアに着いたらまた考えよう。

 あきらめて乗り込んだバスは、フェズまでのバスと同様、小奇麗な普通の観光タイプ。問題ないといえば問題ないが、夜行となるとさすがに厳しい。たぶんほとんど眠れないだろうが、ま、しょうがない。自分で選んだ道だ。

 フェズ出発時は5割程度の乗車率で隣席は空いており、お、こりゃ楽ちんかもと思いきや、次の停車地、大都市メクネスでほぼ満席になった。隣はまた現地人と思しきベールに顔を包んだご婦人。こちらはなにをするわけでもないのだが、なにが失礼に当たるかはわかりゃしないから、ずっと隣を意識しつつの道中。やっぱりたいして眠れず、ウトウトするまま、まだ夜も明けていないエルラシディアに到着した(乗務員に知らされ、慌てて下車したため時間を確認していなかったが、おそらく午前5時頃かと思われる)。

 ターミナル併設のカフェが煌々と灯りをともしているだけで、街は暗闇に沈んでいる。

 バスを降り、荷物を受け取り、さて、途方にくれる。ここからエルフードまでは、おそらくグランタクシー(モロッコでの主要交通手段になっている相乗りタクシー)を使うことになるのだろうが・・・。
 ここで、バスの横でキョロキョロしているわたしにさっそく声をかけてきたのが、地元民・20代前半に見える男。英語で“日本人か? これからどうするのか?”と訊いてきた。

 ――いや、とりあえずエルフードまで行きたいんだけども。

 “砂漠へ行くのか?”

 ――そうそう。

 “宿は決まっているのか?”

 ――決まっているとも。

 “よし、じゃ、そこの宿まで100DHで連れて行ってやるがどうだ?”

 この値段は相場に対してどうなのかはわからない。もしかして法外な値なのかもしれないが、日本円にすればたいしたものではない。
 この若者には信用に足るほどのものはなにも感じられない。最終的にはさらにふっかけてくるかもしれない。しかし、身の危険に及ぶようなことも、おそらくないだろう。そんな事例は渡航前の調べでは見当たらなかった。
 いや、そんなことよりなにより、バスではほとんど寝ていないため、とにかく疲れていた。もうあんまり考えたくない。

 話にのることにした。

 “よーし。決まりだ。ちなみに宿はどこだ?”

 わたしが予約している宿名を告げると、

 “あぁ、あそこはダメだ。『キャンピング・サハラ』の方がいい”

 あぁ、なるほど、そういうことか。そういうことならこっちも折れるわけにはいかない。日本人だと思ってナメるなよ(100DH払う時点で負けてるのかもしれないが)。
 『キャンピング・サハラ』はガイドブックにも載っている砂漠の宿だったが、だいたいもう他を予約しているし、わざわざ変更する理由はない。

 ――いや、いいよ。予約してるんだから。

 “じゃあ、キャンセルすればいい”

 しつこい! これからも日本人相手に商売をするなら、もっと日本人気質を勉強しやがれ。
 頑なに拒否をしていたら、やっと諦めてくれて、“もう少しここで待っていてくれ”と、カフェで待たされること15分ほど。男はさらにふたりの日本人男性を連れてきた。そういえば、彼らも同じバスに乗っていた。
 聞くとふたりは大学生。わたしと同じで砂漠に行く予定で、宿は決めてなかったそうだが、さきほどの男にいわれるがまま、『キャンピング・サハラ』に決めてしまったとのこと。ま、宿が決まってなかったというのなら、それは渡りに舟ということで、そういう流れもしょうがないか。

 後、日本人3人、男に連れられて歩くこと数十メートル。1台のグランタクシーと、3人のモロッコ人男性が待ちかまえていた。
 ここでわたしに話を持ちかけてきた男が、3人の内のひとりをわたしに紹介し、“現地に着いたらこの男に100DH払え”と。見ると、学生ふたりには別の男が着いて、なにやら話している。この男達は、それぞれのガイドと、もうひとりはドライバーということか。
 続いて話を持ちかけてきた男、

 “よし、おれが話をつけてやったんだ。チップで70DH払え”

 ときた。同乗はしないらしい。
 あぁやっぱりこいつは宿の客引きか、ただのタクシー斡旋ということだったのか。

 もういい。わかったわかった。おれの負けだ。なんの勝負かわからないが、負けだ。とにかくもうめんどくさい。
 70DHを男に渡して乗車。男6人を乗せ、タクシーは未明のエルラシディアを発車した。

 
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10日目のこと・2 ~モロッコの片隅で青年と交流する~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 男6人を乗せたグランタクシーは、一路サハラ砂漠を目指して南下していく。

 モロッコにおける主要交通手段であるグランタクシーは、たいがいはボロボロのベンツを使っていて、最大で後部座席に4人、助手席に2人、そして運転手の計7人を詰め込んでの走行という、日本の道交法などクソくらえとでもいわんばかりの運行をしている。

 今回のタクシーも例にもれずベンツ。じつはわたしはこれがベンツ初乗車。ボロボロとはいえベンツはベンツ。乗る直前はちょいとワクワクしてみたものの、わたし付(と思われる)ガイドと2人、助手席に乗せられギュウギュウ詰め。ベンツ初乗車の感慨に浸る余裕はなかった。

 途中、崖っぷちで停車。“眺めがいいからここで記念撮影でもしておけ”とのことで、同乗の日本人学生はバシャバシャやっていたが、わたしは納得いかないまま流されるまま金を払わされ、ほんとうに目的地まで連れていってくれるのかわからないまま、いつのまにか辺鄙な場所まで連れてこられ、まぁとにかくあまりうまくいってないこの状況に若干ふてくされて気分が乗らず、“なんだオマエは撮影しないのか”といわれても、“いやおれカメラ持ってないからいいよ”、と、つまらない意地を張ってみたり。

 引き続きの道中、車内。わたし付の青年がしきりに話しかけてきて、こちらも不機嫌とはいえ返答しない理由は特にないので、お互いつたない英語で会話を試みてみた。

 “あなたのお名前なんてーの?”

 ◯◯と申します。

 “その名前には意味があるの?”

 えーとですねぇ、日本人の名前には、それ自体に意味があったり、字に意味があったりしてですね、わたしの場合は云々――もう絶対伝わってないだろうなぁと思いつつ、でまかせの英語で説明してみた。

 “職業は? 学生?”

 どの国に行っても日本人は若く見えるらしい。おれ、30過ぎたオッサンなのに。
 めんどくさいので、そのままうなずいて、わたしは自称学生ということになった。

 “専攻はなに?”

 あぁ、うーん、えーとだねぇ、ごにょごにょ・・・。

 “ぼくは自動車のエンジニアになりたくて勉強してるんだ”

 なんとかして意思疎通をはかろうとする真摯な姿勢が垣間見られる。
 たぶんこの青年、いい人だ。
 またモロッコ人を信用できなくなってきていたところで、わずかに心が緩んできた。

 話しているうちに、どこぞやの街にたどり着いた。
 そこでわたしと、わたし付の青年が降ろされた。さらにドライバーと、他の日本人学生付のオッサンも降りてきて、なにやら話し込んでいる。

 あぁ、あれだな。たぶん、めんどくさい状況になるんだろうな。

 で、わたしを連れていくのはここまでだ、と。ホテルまでは行かないぞ、と。ここまでホテルの人間に迎えに来てもらえ、と。

 結局こいつら全員キャンピング・サハラのまわし者ということだったか。
 あぁ、もう嫌だ。せっかく気分が落ち着いてきたところなのに。
 抵抗する気力はおこらない。もちろんその術もないのだが。
 まぁ、むりやり車に乗ったところで目当ての宿まで行かないんじゃしょうがないし。エルラシディアで斡旋の若者に払った金は諦めるとして、この青年にはまだ一銭も払ってないのだから、もういいや。

 ベンツはふたりの日本人学生と、そのお付のオッサンを乗せて去っていった。学生さんよ、旅の無事を祈る。

 しかし、どういうわけか、わたし付の青年は一緒に残っている。

 訊くと、“いや、ぼくもここで降ろされるとは聞いてなかった”と、困惑の表情を見せている。
 彼はあのまわし者の一員ではなく、わたしを騙そうという気もハナからないようだった。

 お互い災難だったね。ところでここはどこなの?

 “リッサニだよ。まぁとにかくキミが泊まるホテルの人を呼ぼうか”

 幸い、ここも携帯電話はバッチリ通じるようだ。かけると、一昨日の男性が出た。迎えに来てくれと要請。ただ、約束していたエルフードではなくリッサニにいるという説明が難儀なので、そこは青年と交代し、待ち合わせ場所なども決めてもらった。

 その待ち合わせ場所まで、男ふたり、とぼとぼ歩きながら、途中ATMに立ち寄り現金を確保。
 そしてこの好青年に、当初の約束どおりの100DHを渡そうとした。

 すると、“いや、そんな受け取れないよ。ホテルまで連れて行ってあげられなかったんだから”

 その姿勢に、さらに好感を持った。
 いや、いいんだ。旅がうまくいかず、モロッコという国自体が嫌いになりそうになっているところ、キミみたいな普通の青年は、おれにとってはわずかな光明だ。それに日本人はちゃんと約束を守るんだよ。
 きっちり100DHを渡し、またいろいろ世間話をしながら待ち合わせ場所にたどり着き、さらに15分程待ったところで、1台のランドクルーザーがやってきた。ホテルスタッフのお出ましだ。

 ここで青年とお別れ。
 キミみたいな若者がモロッコの未来を担ってゆくのだ。がんばってくれたまえ。
 ――と、思ったことを口にすることはなく、“ありがとう、世話になったね、じゃ、気をつけて”と、通り一遍なことばをお互いに交わし、リッサニを後にした。
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