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10日目のこと・2 ~モロッコの片隅で青年と交流する~ [はじめての複数国周遊~モロッコ編~]

 男6人を乗せたグランタクシーは、一路サハラ砂漠を目指して南下していく。

 モロッコにおける主要交通手段であるグランタクシーは、たいがいはボロボロのベンツを使っていて、最大で後部座席に4人、助手席に2人、そして運転手の計7人を詰め込んでの走行という、日本の道交法などクソくらえとでもいわんばかりの運行をしている。

 今回のタクシーも例にもれずベンツ。じつはわたしはこれがベンツ初乗車。ボロボロとはいえベンツはベンツ。乗る直前はちょいとワクワクしてみたものの、わたし付(と思われる)ガイドと2人、助手席に乗せられギュウギュウ詰め。ベンツ初乗車の感慨に浸る余裕はなかった。

 途中、崖っぷちで停車。“眺めがいいからここで記念撮影でもしておけ”とのことで、同乗の日本人学生はバシャバシャやっていたが、わたしは納得いかないまま流されるまま金を払わされ、ほんとうに目的地まで連れていってくれるのかわからないまま、いつのまにか辺鄙な場所まで連れてこられ、まぁとにかくあまりうまくいってないこの状況に若干ふてくされて気分が乗らず、“なんだオマエは撮影しないのか”といわれても、“いやおれカメラ持ってないからいいよ”、と、つまらない意地を張ってみたり。

 引き続きの道中、車内。わたし付の青年がしきりに話しかけてきて、こちらも不機嫌とはいえ返答しない理由は特にないので、お互いつたない英語で会話を試みてみた。

 “あなたのお名前なんてーの?”

 ◯◯と申します。

 “その名前には意味があるの?”

 えーとですねぇ、日本人の名前には、それ自体に意味があったり、字に意味があったりしてですね、わたしの場合は云々――もう絶対伝わってないだろうなぁと思いつつ、でまかせの英語で説明してみた。

 “職業は? 学生?”

 どの国に行っても日本人は若く見えるらしい。おれ、30過ぎたオッサンなのに。
 めんどくさいので、そのままうなずいて、わたしは自称学生ということになった。

 “専攻はなに?”

 あぁ、うーん、えーとだねぇ、ごにょごにょ・・・。

 “ぼくは自動車のエンジニアになりたくて勉強してるんだ”

 なんとかして意思疎通をはかろうとする真摯な姿勢が垣間見られる。
 たぶんこの青年、いい人だ。
 またモロッコ人を信用できなくなってきていたところで、わずかに心が緩んできた。

 話しているうちに、どこぞやの街にたどり着いた。
 そこでわたしと、わたし付の青年が降ろされた。さらにドライバーと、他の日本人学生付のオッサンも降りてきて、なにやら話し込んでいる。

 あぁ、あれだな。たぶん、めんどくさい状況になるんだろうな。

 で、わたしを連れていくのはここまでだ、と。ホテルまでは行かないぞ、と。ここまでホテルの人間に迎えに来てもらえ、と。

 結局こいつら全員キャンピング・サハラのまわし者ということだったか。
 あぁ、もう嫌だ。せっかく気分が落ち着いてきたところなのに。
 抵抗する気力はおこらない。もちろんその術もないのだが。
 まぁ、むりやり車に乗ったところで目当ての宿まで行かないんじゃしょうがないし。エルラシディアで斡旋の若者に払った金は諦めるとして、この青年にはまだ一銭も払ってないのだから、もういいや。

 ベンツはふたりの日本人学生と、そのお付のオッサンを乗せて去っていった。学生さんよ、旅の無事を祈る。

 しかし、どういうわけか、わたし付の青年は一緒に残っている。

 訊くと、“いや、ぼくもここで降ろされるとは聞いてなかった”と、困惑の表情を見せている。
 彼はあのまわし者の一員ではなく、わたしを騙そうという気もハナからないようだった。

 お互い災難だったね。ところでここはどこなの?

 “リッサニだよ。まぁとにかくキミが泊まるホテルの人を呼ぼうか”

 幸い、ここも携帯電話はバッチリ通じるようだ。かけると、一昨日の男性が出た。迎えに来てくれと要請。ただ、約束していたエルフードではなくリッサニにいるという説明が難儀なので、そこは青年と交代し、待ち合わせ場所なども決めてもらった。

 その待ち合わせ場所まで、男ふたり、とぼとぼ歩きながら、途中ATMに立ち寄り現金を確保。
 そしてこの好青年に、当初の約束どおりの100DHを渡そうとした。

 すると、“いや、そんな受け取れないよ。ホテルまで連れて行ってあげられなかったんだから”

 その姿勢に、さらに好感を持った。
 いや、いいんだ。旅がうまくいかず、モロッコという国自体が嫌いになりそうになっているところ、キミみたいな普通の青年は、おれにとってはわずかな光明だ。それに日本人はちゃんと約束を守るんだよ。
 きっちり100DHを渡し、またいろいろ世間話をしながら待ち合わせ場所にたどり着き、さらに15分程待ったところで、1台のランドクルーザーがやってきた。ホテルスタッフのお出ましだ。

 ここで青年とお別れ。
 キミみたいな若者がモロッコの未来を担ってゆくのだ。がんばってくれたまえ。
 ――と、思ったことを口にすることはなく、“ありがとう、世話になったね、じゃ、気をつけて”と、通り一遍なことばをお互いに交わし、リッサニを後にした。
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