贋作 罪と罰 [感想文]
職場の同僚に劇団員がいて、「公演を観にきて欲しい」と、再三にわたり誘われていたのだが、その度、わたしははねつけていた。
映画館と同様、とにかく劇場が苦手なのだ。
そして演劇といえばやはり『ガラスの仮面』であり、わたしにとっての演劇とはそれこそがすべてなのである。作品上で“最高の舞台、最高の演技”を観てしまっている以上、現実で他の舞台など観ても、おそらくがっかりするだけで、そんなことに金を払いたくない。
しかし数ヶ月前、同僚の彼が次に演る公演内容を自信なさげに告白してきたとき、笑っちゃうくらいびっくりした。
「次は野田秀樹さんの舞台をやることになりまして・・・」
――うそーん! まじでか?――
最初は彼が野田の舞台に客演するのかと思ったが、そうではなく、彼の劇団が野田作品を演じるということだそうで、まぁそれでも驚きに変わりなく、作品名をきいたら、
「『贋作 罪と罰』というやつでして・・・」
――うほ! なんだよ、おれでも知ってるよ、それ。しかし、野田でしょ? だいじょうぶなの? 素人だからくわしいことはわからんが――
「やばいです・・・。いつもは強力に誘ってますが、今回ばかりはちょっと・・・」
――えへ・・・、あぁそう・・・、むふ・・・――
ということで、えー、いってきましたとも、いっちゃいましたとも、西荻窪まで。
“遊空間がざびぃ”なる小劇場というか、イベントスペースというか。
こういう場所はもちろん初めて。演者との距離の近さが照れくさく、好きな人はそれがいいのだろうが、どうにも慣れそうにない。
そして始まった。
花火を表現しているとおぼしきパフォーマンスの導入部に、「おいおい、初心者に前衛はきついぜ・・・」と、先行きに不安を抱えたが、その後はじつに正統派のまっとうな芝居へと移行。小劇場に対する違和感もいつのまにか消え、すっかり芝居に没入することができた。
いや、すごくよかったですよ、ほんとに。
膨大な量のテキストが速射砲のように発せられる台詞まわしであるにもかかわらず、それがすんなり耳に届き、頭に入ってきた。演劇論のなにも知らないズブの素人のわたしに、正当な評価などできるものではないが、これはやっぱり、役者のみなさんに実力があるということかなと。
ただ、全体を通して台詞が乾いた語感であるのに対して、終盤、突然ポエティックな甘い語感になったことに、多少の違和感をおぼえた。これはもともと野田が意識して脚本にしたものなのか、それとも本家(?)の『贋作 罪と罰』においての演技、演出では感じられないものなのか。
本家(?)を観たことがないため比較できないし、だいたい演劇とは比較論で語れることではないと思うので、まぁいい。とにかく、わたしは芝居に没入できたわけで、こっそり泣いたりしていた。感動できたのだ。
悪いのは演技でなく、脚本なのだ。そういうことにしておこう。
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